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【技術書レビュー/書評/要約】実践データマネジメント AI【BIの活用レベルを上げる新しい基盤・組織・運用】

実践データマネジメント AI/BIの活用レベルを上げる新しい基盤・組織・運用

タイトル 実践データマネジメント AI
著者 BIの活用レベルを上げる新しい基盤・組織・運用 / 川上明久
出版社 日経BP
発売日 2024年02月

実践データマネジメント AI:クラウド時代におけるデータ戦略の考察

本書「実践データマネジメント AI」は、クラウド時代におけるデータマネジメントの実践的な指針を提供することを目的としている。筆者のコンサルティング経験に基づいた内容は、データ活用における現実的な課題と、それに対する効果的な解決策を提示しており、一定の価値を持つと言えるだろう。しかしながら、高度な技術スキルを持つ読者にとっては、記述の深さに物足りなさを感じるところもあった。以下、詳細に検討する。

データガバナンスとクラウド環境の連携:期待と現実

本書は、データガバナンスの重要性を強調し、クラウド環境下での効率的なデータ管理手法を解説している。データカタログの構築、メタデータ管理、データセキュリティに関する記述は、基本的な概念を理解する上で役立つ。特に、アクセス制御やデータマスキングといったセキュリティ対策に関する記述は、実践的な視点から書かれており、初学者にも分かりやすいだろう。

しかし、クラウド環境におけるデータガバナンスの複雑さを十分に反映しているとは言えない。例えば、マルチクラウド環境におけるデータの一貫性維持や、クラウドプロバイダー固有のセキュリティ機能の活用方法などは、より詳細な説明が必要だった。また、データのライフサイクル管理についても、単なる概念の説明にとどまっており、具体的な実装方法やツールに関する情報は不足している。高度なスキルを持つエンジニアにとっては、既知の情報が多く、新たな知見を得られる部分は限定的である。

AIとの連携:表面的な言及にとどまる

タイトルに「AI」が含まれているにも関わらず、本書におけるAIへの言及は非常に限定的である。AIを活用したデータ分析や機械学習によるデータ活用事例は、具体的な技術的な解説が不足している。AI技術の活用を前提としたデータマネジメント戦略や、AIモデルのトレーニングデータの管理方法といった、より深い議論が期待された。 単にAIという言葉を含めることで、現代的な響きを持たせようとした感が否めない。

データエンジニアリングの視点からの不足

本書は、データマネジメントのビジネス的な側面に重点を置いているため、データエンジニアリングの視点からの記述が不足している。データウェアハウスやデータレイクの構築、ETLプロセスの最適化、データ品質管理といった、高度な技術的な課題に関する記述は限定的で、具体的な技術スタックやツールに関する情報は少ない。 例えば、大規模データ処理フレームワーク(Spark、Hadoopなど)や、データ統合ツール(Informatica、Talendなど)に関する解説があれば、実用性が高まっただろう。

組織的側面へのアプローチ:バランスの良さ

一方、本書はデータマネジメントにおける組織的側面を適切に扱っている点で評価できる。データ担当者への教育、データ活用のための組織体制の構築、データガバナンスに関する組織文化の醸成といった、技術面以外の課題についても言及している。 データ活用は技術的な側面だけでなく、組織的な側面も重要であることを理解している点は、本書の大きな強みと言えるだろう。特に、データリテラシー向上のための教育プログラムの構築に関する記述は、実践的な示唆に富んでいる。

まとめ:実践的な入門書としては有効だが、高度なスキルを持つエンジニアには不向き

全体として、本書「実践データマネジメント AI」は、データマネジメントの基本的な概念を理解するための入門書としては有効であると言える。しかしながら、高度な技術スキルを持つエンジニアや、大規模データ処理、AIを活用した高度なデータ分析に携わっている者にとっては、内容が浅く、新たな知見を得られる部分は少ないだろう。クラウド環境におけるデータガバナンスの複雑さや、AI技術との連携に関する記述の不足が、本書の大きな弱点となっている。より専門的な内容、具体的な技術スタック、高度な事例研究などを含む、より深い議論が期待される。 現状では、データマネジメントの全体像を把握するための導入として、あるいは、ビジネスサイドの担当者にとっての参考資料として活用できる程度だろう。より専門的な知識や技術を求める読者には、他の専門書を参照する必要があるだろう。 特に、大規模データ処理や高度なAI技術の活用に関する記述の充実が、今後の改訂版において強く望まれる。

今後の改善点に関する提案

  • クラウドプロバイダー(AWS、Azure、GCPなど)固有のサービスや機能に関する詳細な解説を追加する。
  • 大規模データ処理フレームワーク(Spark、Hadoopなど)やデータ統合ツールに関する実践的な解説を追加する。
  • AIを活用したデータ分析や機械学習に関する具体的な技術的な解説と事例を追加する。
  • データガバナンスにおける具体的なツールや技術に関する解説を追加する。
  • 各章に実践的な演習問題やケーススタディを追加する。

本書は、データマネジメントの基礎を学ぶ上での導入としては役立つが、高度な専門知識を求める読者にとっては物足りない内容となっている。より実践的で、高度な技術的解説を含む書籍が今後期待される。

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