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【技術書レビュー/書評/要約】The Things Network 「LoRaWAN」をみんなでシェアして使う 長距離まで届く無料のIoTネットワークサービス【吉田秀利 】

The Things Network: 長距離まで届く無料のIoTネットワークサービス (I/O BOOKS)

タイトル The Things Network 「LoRaWAN」をみんなでシェアして使う 長距離まで届く無料のIoTネットワークサービス
著者 吉田秀利
出版社 工学社
発売日 2018年02月

The Things Network 「LoRaWAN」をみんなでシェアして使う 長距離まで届く無料のIoTネットワークサービス:詳細レビュー

本書「The Things Network 「LoRaWAN」をみんなでシェアして使う 長距離まで届く無料のIoTネットワークサービス」は、LoRaWANネットワーク構築における実践的なガイドとして、一定の価値を提供する一方で、いくつかの改善点も残していると感じました。特に、高度なスキルを持つ開発者にとって、本書の記述には物足りなさを感じる部分がある一方、LoRaWAN入門者にとっては、実践的な手順と豊富なTipsが非常に役立つでしょう。

LoRaWANとThe Things Networkの概要:的確な導入

本書は、LoRaWAN技術とThe Things Networkプラットフォームの概要を簡潔に説明することで、読者の理解をスムーズに進めてくれます。特に、LoRaWANの技術的な詳細に踏み込みすぎず、必要最低限の情報を提供することで、初心者でも容易に理解できるよう配慮されている点は高く評価できます。 しかし、より高度なトピック、例えば、LoRaWANのパラメータ調整による通信距離の最適化や、異なる周波数帯域におけるLoRaWANの動作特性に関する説明は不足していると感じます。経験豊富なエンジニアであれば、これらの詳細な情報が求められるでしょう。

The Things Networkプラットフォームの解説:実践的なTipsが豊富

The Things Networkプラットフォームの解説は、本書の大きな魅力の一つです。プラットフォームの機能説明に加え、デバイス登録からデータ受信、そしてアプリケーション開発に至るまで、具体的な手順が丁寧に解説されています。特に、各手順におけるTips&Tricksは、開発における潜在的な問題点の回避に役立ち、実践的なノウハウとして非常に価値があります。 例えば、ゲートウェイの最適な配置方法や、電波干渉への対策など、具体的な事例に基づいたアドバイスは、開発効率の向上に大きく貢献するでしょう。 しかし、エラーハンドリングに関する記述がやや不足している点が気になります。 実際の運用においては、様々なエラーが発生する可能性があり、それらに対する対処法についての記述がもっと充実していると、より実践的なガイドとなるでしょう。

ソフトウェア設定とIoTデバイス実装:具体的なコード例が重要

本書では、The Things Networkプラットフォームのソフトウェア設定とIoTデバイスの実装方法について、図解を交えて丁寧に説明されています。しかし、より実践的な内容にするためには、具体的なコード例を増やすべきです。特に、異なるマイコンや開発環境に対応したコード例を提供することで、より多くの読者が本書の情報を活用できるようになります。現状では、サンプルコードが限定的であるため、読者が独自の環境に適用する際に、ある程度のプログラミングスキルと試行錯誤が必要となるでしょう。これは、本書のターゲット層が初心者にも広がっていることを考えると、大きな課題と言えます。

セキュリティに関する考察:脆弱性への対策が不足

IoTデバイスのセキュリティは、近年ますます重要になっています。しかし、本書ではセキュリティに関する記述が非常に少ない点が残念です。LoRaWANプロトコル自体のセキュリティ機構の説明に加え、The Things Networkプラットフォームにおけるセキュリティ設定や、デバイスファームウェアのセキュリティ対策などについて、より詳細な説明が必要でしょう。特に、攻撃手法とその対策について具体的な事例を挙げて説明することで、読者のセキュリティ意識を高めることができるはずです。これは、IoTシステムの運用において非常に重要な要素であり、今後の改訂で大きく改善されるべき点です。

高度なトピックへの言及:発展的な内容への期待

本書は、LoRaWANとThe Things Networkの入門書として十分な内容を備えています。しかし、高度なプログラミングスキルを持つ読者にとっては、より高度なトピック、例えば、LoRaWANネットワークの最適化、データ分析、機械学習との連携、といった内容への言及が不足していると感じます。 例えば、複数のゲートウェイを用いたネットワーク構築における最適化手法や、LoRaWANデータを用いた高度なデータ解析手法などについて、簡潔ながらも詳細な説明を加えることで、本書の価値はさらに高まるでしょう。

まとめ:初心者から中級者まで幅広く対応できる良書

全体として、本書はLoRaWANとThe Things Networkを利用したIoTシステム開発の入門書として、非常に優れたガイドです。豊富な図解と実践的な手順説明により、初心者でも容易に理解し、実際にシステムを構築できるようになっています。ただし、高度なプログラミングスキルを持つ開発者にとっては、内容がやや物足りない部分もあるかもしれません。 セキュリティに関する記述の充実や、高度なトピックへの言及、そしてより多くの具体的なコード例を追加することで、さらに魅力的な一冊となるでしょう。LoRaWANを用いたIoT開発に興味を持つ方、特に初心者から中級者レベルの開発者にとって、本書は強力な武器となることは間違いありません。 しかし、上級者にとっては、補足的な資料を参照する必要性があるかもしれません。 それでも、本書が提供する実践的なTipsと手順は、開発時間を大幅に短縮し、スムーズな開発プロセスを支援してくれるでしょう。

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