タイトル | withコロナ時代のためのセキュリティの新常識 知識ゼロでもだいじょうぶ |
著者 | 那須慎二 |
出版社 | ソシム |
発売日 | 2020年10月 |
withコロナ時代のためのセキュリティの新常識 知識ゼロでもだいじょうぶ:詳細レビュー
本書「withコロナ時代のためのセキュリティの新常識 知識ゼロでもだいじょうぶ」は、そのタイトル通り、セキュリティの基礎知識を網羅的に解説した入門書である。しかし、単なる入門書と片付けるには惜しい、多くの示唆に富んだ内容と、実践的なチェックリストの存在が本書の魅力と言える。 高度なスキルを持つプログラマ/エンジニアの視点から、本書を詳細にレビューする。
優れた点:初心者にも分かりやすい丁寧な解説と実践的なアプローチ
本書の最大の強みは、セキュリティに関する専門用語を丁寧に解説し、図表を多用することで、初学者でも理解しやすいように配慮されている点だ。特に、近年増加しているフィッシング詐欺やランサムウェア攻撃といった具体的な事例を挙げながら、それぞれの攻撃手法や対策を解説しているのは、非常に実践的で役に立つ。 多くの専門書では、技術的な詳細に終始し、初学者にとって理解が困難な場合が多いが、本書はそういった点を完全に克服していると言える。
例えば、TLS/SSLの仕組みを説明する際、暗号化のプロセスを分かりやすい図解で示している点は、技術的な理解を深める上で非常に効果的である。暗号化アルゴリズムの詳細な説明は省かれているものの、その動作原理を理解するのに十分な情報が提供されている。更に、HTTPとHTTPSの違いを明確に示し、HTTPSを利用する重要性を説いている点も高く評価できる。 これらの説明は、高度な技術知識を持つ読者にとっても、自身の知識の整理や、他者への説明の際に役立つだろう。
また、各章末に設けられたチェックリストは、本書の大きな価値と言える。PCやスマホの設定、パスワード管理、ソフトウェアのアップデートなど、具体的なセキュリティ対策をステップバイステップで確認できるようになっている。これは、知識を習得するだけでなく、実際にセキュリティ対策を実践する上での強力なツールとなる。 特に、企業でシステム管理に携わっている者にとっても、従業員へのセキュリティ教育資料として活用できる可能性を秘めている。
チェックリストの活用と改善点
本書のチェックリストは非常に便利だが、より高度なセキュリティ対策を検討している読者にとっては、やや物足りない部分もある。例えば、多要素認証(MFA)の具体的な設定方法や、VPNの利用方法についての解説は、もう少し詳細な記述が望ましい。 また、企業レベルのセキュリティ対策については、触れられているものの、詳細な解説は不足している。 これは、本書が「知識ゼロでも大丈夫」を謳っていることを考えれば、ある程度は許容できる範囲と言えるが、より高度な知識を求める読者にとっては、追加の情報が必要になるだろう。
さらに、最近のトレンドであるゼロトラストセキュリティモデルについての言及がほぼ無い点は、改善の余地がある。 本書が発行された時期を考慮する必要があるが、ゼロトラストセキュリティは、現代のセキュリティ対策において非常に重要な概念であり、少なくともその概要について言及しておくべきではないだろうか。
全体的な評価とターゲット層
本書は、セキュリティの基礎知識を分かりやすく学ぶことができる優れた入門書である。高度な技術知識を必要とせず、図表を豊富に用いた丁寧な解説は、初心者にとって大きな助けとなるだろう。 また、実践的なチェックリストは、セキュリティ対策の実施を促進する上で非常に有効である。
ただし、高度なセキュリティ技術を学びたい読者や、企業レベルのセキュリティ対策を検討している読者にとっては、本書だけでは不十分である可能性がある。本書はあくまで入門書であり、更なる知識習得のために、他の専門書を参照する必要があるだろう。
総合的に判断して、本書はセキュリティ初心者、特にPCやスマホのセキュリティ対策に不安を感じている一般ユーザーにとって、最適な一冊と言える。 また、セキュリティ担当者ではないが、自身のセキュリティ意識を高めたいと考えているエンジニアやプログラマにとっても、基礎知識の再確認や、他者への教育資料として有効に活用できるだろう。 専門用語の解説が丁寧で、かつ実践的なチェックリストが付いている点が、本書の大きな魅力である。 セキュリティ対策の第一歩を踏み出したいと考えている全ての人にお勧めしたい。