タイトル | 50歳SEの生き方 |
著者 | 松山貴之 / 牛島美笛 |
出版社 | 日経BP社 |
発売日 | 2018年05月 |
50歳SEの生き方:熟練エンジニアのキャリア戦略と、未来への指針
本書「50歳SEの生き方」は、タイトル通り50歳を目前にした、あるいは既に50歳を超えたSEをターゲットにしたキャリア戦略指南書である。しかし、その内容は年齢に捉われず、幅広いキャリアステージのエンジニア、特に高度なスキルを有するベテランエンジニアにとって、大きな示唆を与えるものとなっている。 本書で提示される「強みを極める」「軸足を半歩ずらす」「得意を副業に」「自分の環境を作る」「替えがきない人に」「SE経験が武器」という6つの戦略は、単なる成功哲学ではなく、具体的な事例と考察を交えながら、現実的なキャリアプランニングへの道筋を示している点が優れている。
強みを極める:専門性の深耕と市場価値の最大化
本書の最初の戦略「強みを極める」は、技術者として最も重要な要素を突いている。単に多くの技術を広く浅く学ぶのではなく、特定の分野に特化し、深い専門性を築くことの重要性を説いている。これは、多くのエンジニアが陥りがちな「何でも屋」状態からの脱却を促すものであり、市場価値の最大化、ひいてはキャリアにおける交渉力の向上に直結する。具体的には、特定のフレームワークや言語、あるいは特定のドメインへの深い理解と、それを裏付ける豊富な経験が求められると論じている。単なる知識ではなく、実践に基づいた深い理解こそが、真の強みとなり、競争優位性を生み出すと主張している点は非常に共感できる。高度な専門知識を武器に、ニッチな市場を開拓する戦略も提示されており、経験豊富なエンジニアにとって参考になるだろう。
専門性深耕の具体例:マイクロサービスアーキテクチャへの特化
著者は、マイクロサービスアーキテクチャを例に、その設計、開発、運用における深い知識と経験こそが、今後ますます価値を高めていくと主張する。単にマイクロサービスという言葉を知っているだけでなく、KubernetesやDocker、Istioといった関連技術への深い理解、そしてそれらを駆使した実践経験こそが、他者との差別化を図る上で不可欠であると強調している。これは、高度なスキルを持つエンジニアにとって、現状維持ではなく、常に新しい技術を学び、習熟していくことの重要性を改めて認識させる。
軸足を半歩ずらす:変化への対応と新たな可能性の探求
「軸足を半歩ずらす」という戦略は、現状維持の危険性と、変化への対応の重要性を説くものだ。技術の進化は常に加速しており、現在のスキルが将来も通用するとは限らない。そのため、常にアンテナを張り巡らし、新たな技術や市場動向をキャッチアップする必要性を指摘している。しかし、それは既存の専門性を捨てるという意味ではなく、既存のスキルをベースに、新たな領域へと進出することを意味する。例えば、バックエンドエンジニアであれば、フロントエンド開発やDevOpsへの知識を深めることで、より広い範囲での貢献が可能になるだろう。これは、単なるスキルセットの拡充にとどまらず、キャリアにおける柔軟性と適応性を高めることに繋がる。
変化への対応:AI技術への積極的な取り組み
具体例として、AI技術への言及がある。著者は、AI技術が様々な分野に浸透していく中で、エンジニアがAI技術を理解し、活用していくことの重要性を訴えている。これは、単にAI関連のライブラリの使い方を学ぶだけでなく、AIの基礎的な概念やアルゴリズムを理解し、ビジネスニーズに合わせたAIソリューションを設計・開発できる能力を身につけることを意味する。これは、既存のスキルとAI技術を融合させることで、新たな価値創造につながることを示唆している。
負の側面:やや抽象的な部分と限定的な視点
本書は、全体的にポジティブなメッセージに満ち溢れており、モチベーションを高める効果は高い。しかし、一部、具体的な事例や手法が不足している部分も見られる。例えば、「自分の環境を作る」という戦略において、具体的な環境構築の方法やリスク管理については、やや抽象的な説明にとどまっている。また、50歳SEの視点に限定されているため、より若い世代のエンジニアにとっては、一部内容が現実離れしているように感じる可能性もある。
結論:ベテランエンジニアにとっての必読書
「50歳SEの生き方」は、熟練したエンジニア、特に高度な技術スキルを持つエンジニアにとって、非常に有益な情報を提供してくれる。年齢を重ねてもなお、市場価値を高め、充実したキャリアを築くための具体的な戦略と、そのための指針が示されている。もちろん、すべての内容が全てのエンジニアに当てはまるわけではないが、本書で提示されている戦略を参考に、自身のキャリアプランを見つめ直すきっかけになることは間違いないだろう。本書は、単なるキャリア指南書ではなく、ベテランエンジニアとしての生き方、働き方、そして未来への指針を示してくれる、まさに必読書であると言えるだろう。