技術書の道しるべ【IT技術書のレビュー・書評サイト】

【技術書の道しるべ】はIT技術書のレビューサイトです。

【技術書レビュー/書評/要約】イラストでわかるDockerとKubernetes【徳永航平 】

[改訂新版]イラストでわかるDockerとKubernetes (Software Design plusシリーズ)

タイトル イラストでわかるDockerとKubernetes
著者 徳永航平
出版社 技術評論社
発売日 2024年03月

イラストでわかるDockerとKubernetes:詳細レビュー

本書「イラストでわかるDockerとKubernetes」は、DockerとKubernetesの概念をイラストを用いて解説した入門書である。DockerとKubernetesは、現代のクラウドネイティブアプリケーション開発において不可欠なコンテナオーケストレーション技術であり、その重要性は言うまでもない。しかし、その複雑さゆえに、初学者にとって理解のハードルが高いのも事実である。本書は、このハードルをイラストという視覚的なアプローチによって低減しようと試みている点において、一定の評価に値する。

Dockerの解説:基礎から実践的な応用例まで

本書におけるDockerの解説は、コンテナ化の基本概念から、Dockerイメージの作成、Dockerfileの記述、Docker Composeを用いたマルチコンテナアプリケーションの構築まで、比較的網羅的である。特に、Dockerfileのベストプラクティスや、イメージサイズの最適化に関する記述は、実践的な開発に役立つ情報として高く評価できる。多くの入門書では、FROMRUNCMDといった基本的な命令の説明に留まることが多いが、本書では、COPYADDWORKDIRといった命令についても、それぞれの挙動と使用例を丁寧に説明しており、より高度なDockerfileの記述を学ぶことができる。更に、マルチステージビルドや、Dockerイメージのスキャン、セキュリティに関する記述も含まれており、セキュリティ意識の高い開発者にも有用な情報が提供されている。ただし、Docker Swarmについては、やや簡略化されている感があり、より詳細な解説を期待したい点もあった。

Kubernetesの解説:概念の理解を助けるイラストレーション

Kubernetesの解説においては、本書の強みであるイラストレーションが効果を発揮している。複雑な概念であるPod、Deployment、Service、Namespaceなどを、図解を用いて説明することで、初学者であっても比較的容易に理解できるよう工夫されている。特に、Podのライフサイクルや、Deploymentによるスケーリング、Serviceによるサービスの公開といった重要な概念については、イラストとテキストの組み合わせによって、非常に分かりやすく解説されている。しかし、Kubernetesの高度な機能、例えば、StatefulSet、DaemonSet、Jobといった機能については、簡潔な説明にとどまっており、より詳細な解説を期待する読者には物足りない可能性がある。また、Kubernetesの構成要素間の連携についても、もう少し詳細な説明が必要だと感じた。例えば、kube-apiserver、kube-scheduler、kube-controller-managerといった主要コンポーネント間のインタラクションについて、より具体的な図解や説明があると、理解が深まっただろう。

Kubernetesの運用面:不足している点

本書では、Kubernetesの運用面に関する記述が比較的少ない。例えば、Kubernetesクラスタの構築、モニタリング、ログ収集、セキュリティ設定といった重要なトピックについては、ほとんど触れられていない。これらのトピックは、Kubernetesを本番環境で運用する上で必須であり、本書がより実践的な内容となるためには、これらのトピックについても詳細な解説が必要となるだろう。

実践的な演習の不足

本書は概念の説明に重点を置いているため、実践的な演習が少ない点が残念である。DockerやKubernetesの基本的なコマンドの使い方を学ぶことはできるものの、実際にアプリケーションをデプロイしたり、運用したりする経験は得にくい。読者が本書の内容を理解し、実践的に活用できるよう、より多くの演習問題やサンプルコードを含めるべきだと考える。

全体的な評価:入門書としては優れているが…

全体として、本書「イラストでわかるDockerとKubernetes」は、DockerとKubernetesの入門書としては優れている。イラストを効果的に使用することで、複雑な概念を分かりやすく説明しており、初学者にとって非常に有用な一冊である。しかし、高度な技術者にとっては、内容がやや浅い部分があり、物足りない可能性がある。より高度なトピックや、実践的な運用に関する知識を期待する読者にとっては、本書だけでは不十分であり、他の書籍やドキュメントを参照する必要があるだろう。特に、Kubernetesの高度な機能や運用面に関する知識を得るためには、より専門的な書籍が必要となる。

改善点の提案

今後の改訂版に向けて、以下の改善点を提案したい。

  • Kubernetesの高度な機能(StatefulSet、DaemonSet、Jobなど)の詳細な解説を追加する。
  • Kubernetesの運用面(クラスタ構築、モニタリング、ログ収集、セキュリティ設定など)に関する章を追加する。
  • より多くの実践的な演習問題やサンプルコードを追加する。
  • 各構成要素間のインタラクションをより詳細に説明する。
  • 各コマンドの実行例をより豊富にすることで、実践的な理解を深める。
  • CI/CDパイプラインとの連携についても触れる。

本書は、イラストを用いた分かりやすい解説により、DockerとKubernetesの基礎を学ぶための良い出発点となる。しかし、より深い理解を目指すためには、本書をベースに他の文献も参照する必要があることを付け加えておく。 特に、Kubernetesに関しては、公式ドキュメントや、より専門性の高い書籍を併せて読むことで、より実践的なスキルを習得できるだろう。

©技術書の道しるべ